思想膿漏

Aの発した言葉はきっとどこの国の言葉にも該当しないだろう。

単純な予測ではあるが、適当に発した言葉がどこかの国の言葉で同じ意味を持つ言葉として成り立つ可能性は極めて低い。

「しかしだな君よ。今私は適当に言葉を発したわけではあるが、きちんと『こんにちは』という意思を伝えるつもりで言葉を発した。」

「そんなこと…伝わらなければ意味がないのではないかな。」

「どうかな。」

Aが悪戯を思い付いた子どものような顔で、クスクスと笑った。

きっとこの子どもの考える悪戯は、相当我々大人を悩ませるだろう。

「君は赤ん坊の言葉がわからないからといって、憤慨したり困惑したりするかい？」

「赤ん坊は十分に言葉を発することが出来ない、という前提がある以上は、憤慨したり困惑することはないだろうな。」

敢えて僕も悪戯っ子のような表情を浮かべてAに返した。

しかしAはあいも変わらず目を細めてニヤニヤとこちらを見つめている。