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シャルロットは重い風圧に耐えるために瞳を閉じていたが、やがてギルバードはどこかに降りた。
木が生い茂る森の中そっとシャルロットを降ろし、シャルロットの手を繋いでどこかに向かおうとするギルバードに呆気に取られていたが、シャルロットは直ぐに正気に戻った。
「ギル!!戻らないと駄目よ!!」
「嫌だ。」
ばっさりと否定されたが、諦めるシャルロットではない。
「なにを言っているの?ギル、今日は大切な日でしょう。クリスティーナ様との婚約発表を当事者の貴方がすっぽかすのは良くないわ。今すぐ戻りましょう。ね?」
シャルロットの言葉に足を止めたことを確認し、ほっと安堵の息を吐く。
良かった、と思ったのもつかの間で、再び森の奥に向かって歩き出したのだ。
「ギル!!」
「姫様と結婚はしない。あの方には愛する方がおられる。」
「そんな……いいえ、駄目よ。クリスティーナ様がおかれている現状では相手の肩書きがなによりも重要になるわ。どんな人でもクリア出来ない壁があるの。そして、その壁を唯一壊すことが出来るのはギル、貴方だけなのよ。だから、駄目なのよ……」
「俺の気持ちはどうなる。」
「………………え?」
「姫様のおかれている現状は王都を離れていた俺でも把握している。陛下にも直接言われたからな。だが、俺は断った。」
「な、なんで……」
「「何故」?王族の問題なんかどうでもいい。俺にはその問題よりも優先すべきことがある。それが理由だ。」
ギルバードがようやく足を止めた先には古びた外観の館があり、シャルロットには見覚えがあった。
「ここは……まさか、私たちの故郷の森なの?」
「あぁ。」
ここはギルバードとシャルロットは故郷であり、一番最初に魔物の襲撃に遭った小さな村の外れにあった無人の館。
この館の前で二人は初めて出会った。
「覚えているか?シャル。」
「……えぇ。ここで初めて会ったわね。」
妙なノスタルジーと共に込み上げてくる悲しみをシャルは感じていた。
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