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「おい。危ないぞ。」
疑問符が浮かぶ前に突風がシャルを遅い、顔を庇うように前に出すと少ししてから風が止んだ。
何事かと慌てて見渡せば、窓枠に腰掛ける人物がいた。
月の逆光で誰かはわからないが、シャルにはすぐに誰なのかがわかった。
「…………ど、して……」
「「どうして」?随分だな。久々の再会なのに挨拶がない無礼な幼馴染みに挨拶するために来た、そう言わないと駄目か?」
「ギル……ギルバード、様……」
シャルの言葉に片眉を上げ、ギルバードは睨む。
「お前もか?」
「…………勇者様ですから。」
「勇者、な。体のいい生け贄の事実を隠蔽する都合のいい言葉だよな。」
「いくらなんでもそれは暴言と捉えかねない言葉です。訂正して下さい。」
「訂正する必要はない。事実だ。」
真っ直ぐにギルバードはシャルを見つめるものの、シャルは決してギルバードの方を見ない。
「シャルロット、お前はどっちだ?」
あぁ、嘆かわしい。
騎士道に憧憬し、純真だった彼が偶然魔物を斬り倒したことで、環境が変化し、ギルバードとしてではなく、勇者として生きていかなければならなくなった。
ただのギルバードはもういない。
その事実をシャルは凱旋祭の時に気付いたからこそ、憐憫の眼差しを向けたのだ。
それならば――。
「ギル。私は変わらないわ。」
そう返し、シャルはようやくギルバードに視線を向け、小さく微笑んだ。
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