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リスタート
翌日、携帯電話を新しく買い換えて、母親の顔を見に田舎の温泉へと向かった。小さい温泉宿でもお盆の時期は混んでいるらしく、生き生きと働く母親の姿を見て、本当によかったと思った。
「珍しいこともあるのね、奏太が会いに来てくれるなんて。初めてのことじゃない、何かあったの?」
「いや、携帯失くしちゃってさ、買い換えたから。変な詐欺だと勘違いされないように顔見に来るついでに来たんだ」
「そう?ゆっくりしていって。と、言いたいところだけど、母さんまだ仕事なの。お夕飯までには戻るからね、後何日位いられるの?」
「二、三日……ここに居ても構わない?」
「あら、ずっと居てもいいのに。その代わりきちんと仕事はしなさいね」
そう言って楽しそうに仕事に戻る姿を見てホッとした。やっぱり、あの時親父から離れたのは間違いじゃなかったと思えた。
少なくともこの先の母親の心配はなくなった。
母親が住み込んでいる小さな温泉宿の部屋は意外と快適だった。特にする事もないので、パソコンで適当な賃貸物件を見る。現地に行ってわざわざ見るまでもない。どこに住んでも同じなのだから。
志望する大学の近くの物件、いくつかに問い合わせのメールをいれた。お盆明けには住む場所決めなくてはいけない。
瑞樹はもうあの手紙を読んで部屋を出たはず。多分……。
確認はしない。今月末にはマンションを引き払うように業者に連絡しないといけない。
あそこは賃貸にでも出そう、そうするべきだ。
いろいろな考えをまとめて、ゆっくり考えるのに静かな温泉町は丁度良かった。
結局丸4日、母親のところで過ごした。こんなにも穏やかな関係が母親と持てるとは考えた事もなかった。
帰り際に寂しくないのかと心配する姿をみて、この人にも母親業ができるのだと驚いたくらいだった。
また来るからと、言い残して連絡のあった不動産会社に電話を入れた。戻ったらすぐに新しい人生が始まるんだ。
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