奏太とリュウ

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奏太とリュウ

   「これで話を聞かせてもらえるんだな」  俺と話するために七万、何やってるんだ瑞樹?  顔を上げると泣きそうな顔をしている。  ベッドをチラリと見た瑞樹は目を逸らし、俺の腕をつかんで立ち上がらせた。  「話をさせてくれないか、頼む」  そしてそのままソファへと移動させられ座らされた。  「何を今更聞きたいの、あの時は他に方法がなかった」  「知ってる。俺、お前の事情は知っているのに、見て見ぬ振りしてたから」  「どう言う事?」  「おばさんが殴られるのも、お前自身が殴られるのも見た事ある。学校休んでたときに見舞いに行って……。誰もいないのかと覗いた窓から見えて、怖くて逃げた。大学生になって家を出たらお前を俺が守れば良いだけなんだと、逃げたんだ」  「……」  別に瑞樹がどうにかできた訳はない、あまりにも無力で幼かった。  「お前がいなくなる前の日、俺は幸せだった。朝目覚めて奏太がいない事に気がつくまでは」  「あの日?何のこと言っていんだか、過去はもう過去。瑞樹にだって解るだろう」  「俺たちもう一度、あの日からやりなおせないか」  「無理だね。一晩買ったんだろ、とっととやる事やって終わりにしないか」  「ここじゃ嫌だ。さっきの人は……その……」  「何?さっきの人がどうかした?」  「いや、何でもない。一晩って言ったよな、明日の朝までってことだな。じゃあ、俺のマンションに来てくれないか」  瑞樹の今住んでいる場所……そんな場所など知りたくない。どこに住んでいるか知ったら断ち切れないかもしれない。  「……駄目か?」  畳み掛けられるように言われると抗えなくなりそうだ。自分のどこかにもう一度と言う未練がある。でも今それに流されたら、必ず後悔する。  「この部屋が嫌なら、部屋を取り直す。待ってて」  フロントに電話して、ダブルの部屋を一部屋おさえた。これで良い、金で買われたと思えば……。  部屋の鍵をフロントで受け取って、移動する。権藤と使用していたジュニアスイートに比べて明らかに小さな部屋。  ダブルベッドが部屋のほとんどを占めている。まるで自分が本当に男娼にでもなった気分だ。まあ、この状況じゃ実際そうなのだろうけれど。
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