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「俺たち付き合い始めたの高校生だっただろ。だからさ、いつも図書館とか公園とか、金かからないとこでばっかデートしてたよな」
「そう?覚えてないけど」
覚えていないはずがない、たとえどんな所でも瑞樹といるだけで楽しかった。特別なことをしなくてもただ一緒に居られることが嬉しかった。楽しかった。
「そっかあ、たいしたことしてないもんな。一緒に出掛けて恋人らしいことしてみたかったんだよね」
どれだけ素っ気なくしても、瑞樹の様子は変わらない。
「必要ないと思うけど」
瑞樹が自分で足りないと思ってた部分を埋められれば、納得して終われるのかもしれない。行くと答えようと答えまいと、瑞樹はきっと俺を連れてでるだろう。高校生の時からそうだった、少し強引で結局俺が折れてついて行く。
十日間の夢だから、それくらいと思い始める自分が怖い。
「よく行ってた公園覚えてる?あそこに、新しく水族館できたの知ってる?」
新しくもなにも、外の世界とは切り離された五年半だったから分かるわけがない。
「地元には行かない、分かっているだろう」
「違う、違う。あの当時あったらなって話。今日は都内の水族館に行こう」
二人で並んで歩く、二人並んで水族館へ入る。自分がそんなところへ行く日がくるなんて考えたことさえなかった。
幼い頃はもちろん行ったこともあるのかもしれない。けれど、父親の暴力が始まってからは家族で出かけた記憶さえない。
想像していたより混んでいて、慣れない人混みに気持ち悪くなる。その様子を見た瑞樹がそっと椅子に座らせてくれた。館内ではイルカのショーの時間の放送が流れている。
人の波がぞろぞろとイルカのプールに向かう中、人込みを避けるようにと瑞樹は反対方向へと俺の手を引いて歩いていった。そして海底トンネルに入ったようなチューブ状に広がる形の水槽に俺を連れて行った。
周りの雑踏がかき消され、不快な音も聞こえなくなり圧倒的な景色に飲まれる。
「あ……すご」
「ここに連れてきたかったんだ、水に包まれてる気がしない?」
「……うん」
「見て、あれウミガメ」
「ウミガメ下からなんて初めて見た……」
「良かった、奏太が笑った」
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