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駄目だ、このまま十日間過ごしすと、勘違いするのはお互いだ。
まだ二日目、後八日……その後で瑞樹を振り切る自信がない。溢れ出てしまう気持ちを止める術を知らない。本当に五年半前に戻れるのならそれでも良い。
瑞樹には瑞樹の五年半があり、俺にも俺の五年半がある。そして俺はその間に闇を抱えてしまった。その闇から抜け出すために、振り出しに戻すと決めたはずだ。
それより何より、過去の五年半の影を見るたびに、お互いの見えない過去を考えて負の感情に溺れていく。
最後にもう一度だけでも……そう思う自分の情けなさに涙でそうだ。今、肌を重ねたらもう戻れない。
瑞樹は奥の部屋で眠っているだろう。深夜三時を回るのをまって、寝室を出る。音をたてないようにそっと。
どうせいつかはここを出る予定だった。モバイルパソコンと簡単な着替えこれで十分。後の荷物は業者に任せればいい。
瑞樹ごめんね、でも会えて嬉しかった。
瑞樹は眠りについているようで、ここには音が何もない。静かになった深夜、テーブルの上に置手紙と鍵を残して部屋を後にした。
一度だけ振り返った。なぜか安心した、良かったんだこれで。もう全ては終わった、前に進めると、どこかで考えていた。
お互い先に進むために、瑞樹もここにいてはいけないんだ。
橋の上から携帯を川に投げ落とすと、タクシーを拾いカプセルホテルへと向かう。
狭い繭のような空間で身体を丸めて眠りの世界へ落ちていった。
水族館で見た綺麗なブルーに包まれで漂う夢を見ながら……
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