リスタート

6/11
前へ
/49ページ
次へ
 そうしたら瑞樹が俺の事を諦める?  瑞樹は知らないだろうけれど本当は諦めきれてないのは、俺なんだ。瑞樹に別れると言われて、身体が震えているんだ。  原点に戻るって……何がしたいのだろう。  そもそも俺たちの原点って、何?  あの街にあるのは淀んだ過去と消せない未練だけ。眩しい想い出は何もないというのに。  「何しに行くのか分からない……」  「奏太にどうしても見せたいものがある、奏太はきちんと知らなきゃならない。それだけ」  「何を….…」  それっきり瑞樹は黙ってしまった、だから俺も何も言わない。  「とりあえず、帰る」  「駄目、帰さない。大丈夫、無理にどうこうしようと思ってるわけじゃないんだ」  「着替えもないし……」  「そこ、俺の服着て。下着なら新しいのコンビニで買えばいい、行こう」  手を引かれて立ち上がる。その手の暖かさに、瑞樹の手の暖かさに……違う、勘違いしないようにしなくちゃいけない。  自分の立場をわきまえる。それが大切。手に入れなければ、失うことはない。最初から持っていないものを失くすことはないから。  手に入れてしまうと、失うことが怖くて何もできなくなるんだ。だから、二度とこの手にはしない。そう決めたはず。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

156人が本棚に入れています
本棚に追加