156人が本棚に入れています
本棚に追加
そうしたら瑞樹が俺の事を諦める?
瑞樹は知らないだろうけれど本当は諦めきれてないのは、俺なんだ。瑞樹に別れると言われて、身体が震えているんだ。
原点に戻るって……何がしたいのだろう。
そもそも俺たちの原点って、何?
あの街にあるのは淀んだ過去と消せない未練だけ。眩しい想い出は何もないというのに。
「何しに行くのか分からない……」
「奏太にどうしても見せたいものがある、奏太はきちんと知らなきゃならない。それだけ」
「何を….…」
それっきり瑞樹は黙ってしまった、だから俺も何も言わない。
「とりあえず、帰る」
「駄目、帰さない。大丈夫、無理にどうこうしようと思ってるわけじゃないんだ」
「着替えもないし……」
「そこ、俺の服着て。下着なら新しいのコンビニで買えばいい、行こう」
手を引かれて立ち上がる。その手の暖かさに、瑞樹の手の暖かさに……違う、勘違いしないようにしなくちゃいけない。
自分の立場をわきまえる。それが大切。手に入れなければ、失うことはない。最初から持っていないものを失くすことはないから。
手に入れてしまうと、失うことが怖くて何もできなくなるんだ。だから、二度とこの手にはしない。そう決めたはず。
最初のコメントを投稿しよう!