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「俺、諦め悪くてここまで引きずってしまったからさ、だから決めたんだ。もしも、奏太がやっぱり俺と一緒にいるのは無理だと思ったら…そしたら……まあ、良いか。その後の事は奏太には関係ないもんな」
自分の言葉に瑞樹自身が傷ついた顔をした。その言葉はどちらに向かう刃だったのだろうか……。
コンビニで売れ残っていた弁当を二つ買う。
また同じ道を同じ速さで、同じ歩幅で歩いて帰る。瑞樹は気づいているのだろうか。
どうしても確かめたい衝動が起きて、瑞樹の左手に触れた。
「奏太?」
「……瑞樹だ」
瑞樹が何も言わずに俺の右手を取った。一瞬だけ手をつなぐ、ほんの一瞬だけ。そしてどちらかともなく自然と手が離れた。
部屋に戻るとほとんど会話をしなかった。瑞樹がテーブルをベッドと布団の間に置いた。テーブルを壁に寄せれば少しは広く使えるのだろうけれど、少しでも距離が欲しい俺にはありがたかった。
今日は疲れた、まるで何日も寝てないような疲れ方だ。ぼふっと、布団にうつ伏せに倒れこんだ。新しい布の匂い、ここには瑞樹の匂いはない。
目を閉じるとすっと眠りの中に引かれて落ちそうだ。ふうっと息を吐いて、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。ざわざわと波立っていた心が凪ぐ。
いつの間にかうとうととしていたようだった、炭酸のボトルキャップを外した、ガスの抜ける音に目が覚めた。
「ん……あれ、俺寝てた?」
「起こした?ごめん、寝てていいよ」
「……ん」
布団の上に俺は倒れ込むとぼんやりとシルエットになった瑞樹を見つめていた。瑞樹が薬袋から錠剤を取り出すのが見えた。慣れた様子で口に放り込むと、水道の蛇口から水を直接飲むようにして錠剤を飲み込んだ。
「瑞樹?何飲んでるの……具合悪い?」
「ああ、これは眠剤ってか軽い安定剤だから、別にどこも悪くないよ」
その言葉に慌てて跳ね起きる。
「見せて、その薬」
袋を瑞樹の手から奪うようにして取り上げ薬の名前を確認した。
「な、何?どうしたの奏太」
その薬に衝撃を受けてた……抗うつ剤だ。
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