リスタート

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 「……いつから?」  「え、何……」  「いつから?いつから……これ飲んでるの」  「……それは」  「前に会った時は飲んでなかったよね」  「……ここ半年くらい」  「もしかして、俺のせい……」  薬の袋を見ながら、黒い影に覆われて何も見えなくなりそうだった。  抗鬱剤……嫌な響きだ。昔の母親を思い出す。  「……俺のせいだ」  「違うから、少し眠れなかっただけ。奏太が側に居てくれたら眠れるんだけどな」  そう言って瑞樹は笑う。違うだろう、俺が最初からいなきゃこんなに苦しまなくて済んだんじゃ無いのか。自分の存在に吐きそうになる。  「もう、この話はお終い」  さあ寝ようと、瑞樹は笑う。布団に横になっても寝付けない、嫌な夢を見そうで怖い。寝返りを何度もうつ。瑞樹はもう寝たのかなと様子うかがいながら。  「奏太、起きてる?何もしないから……一緒に眠らないか。普段ならすぐに寝付けるんだけど、なぜか緊張してる」  「……何かするならそっちへ行く、何もしないんじゃ却って眠れない」  瑞樹はすぐに返事をしなかった。一瞬の静寂が降りて来た、そしてベッドの軋む音がした。  「……こっち来て、それとも俺が行く?」  きっと一緒にいたらこのままなし崩しになる、わかっている。それなのに瑞樹の手をとる。馬鹿だとわかっている。それでも気持ちに蓋ができなかった。隙間から漏れ出す煙のように、少しずつ溢れていつの間にか呼吸を奪っていた。  瑞樹は腐りかけたりんごを箱の中に戻そうとする、一緒に朽ちていくのを選ぼうとする。それでいいのかと問いたいが、考えるのも面倒だ。人の肌の温もりがただ恋しいだけかもしれない。  俺が瑞樹に好きと言わなければ、瑞樹を縛らなければ、身体だけの関係なら…...。  自分で嫌になるほど、自分に言い訳けしている。それでも触れた肌は正直だ。絡めた手が喜びで震えている。こんなにも瑞樹を自分が欲していたという事実に触れる。  目をゆっくりと瞑る。この瞬間は欲にだけ溺れられればいい、今を紡ぐことに溺れてそして狂えればいいんだ。
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