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大学に戻る、自分自身のそして瑞希の未来のため。今まで実践で学んだことの学術的裏付け、そんな大義名分は必要なかった。自分が本当に知らない世界を正しく体験して、成長する。
父親も母親も新しいスタートをすでに切っている、今度は俺の番。
「瑞樹、俺ここを出るよ」
「……それって、俺とは別れるってこと?」
「そもそも俺達、付き合っていないでしょう?」
まだ告白の返事も保留のままだった。そしてあの日以来一度もその話をした事は無かった。このまま行けばきっとどこかでまた心も体も寄り添えるかもしれないという思いがどこかに芽生えていた。過去とつながった未来だ、きっといつか自分で逃げ出してしまう。
「今日、瑞希が会社から帰ってくるまでには出る」
「もう、止めることはできない?……無理か?」
「瑞樹が言った通り、過去と決別するよ」
「そこには、俺も含まれるのか……」
「……」
「そうか……」
瑞樹に別れを告げたけれど、悲しくはなかった。それより、次に出会う日の希望が自分の中に残っていた。
部屋を片付ける、一つとしてここに置いていって良いものはない。冷蔵庫も最初に来た時の状態に戻す。洗濯して掃除して、カーテンを閉めるとアパートの部屋を後にした。
鍵をポストに落とした時のコトンという音が軽く響いて、今日までの長かった初恋はやっと執着点に着いたと思った。
俺は大きく息を吸い込むと、一度も振り返らず前へと踏み出した。
<終わり>
【ミヤコワスレ】
ここまで、このふたりのグダグダの恋愛に付き合ってくださった皆様。
心からお礼申し上げます。ありがとうございました。
この二人の物語は「これから始まる」に続きます。
よろしければそちらへ。
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