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「アルティナ、お願い! お金を貸して!」
「ええと、リディア? いきなりどうしたの?」
食堂で夕食を食べていた時、「話があるので、後で時間を取って欲しい」と同僚兼友人に頼まれたアルティナは、快く寮の自室に彼女を招き入れたが、二人向かい合って椅子に座った途端、勢い良く頭を下げられて面食らった。
「本当にごめんなさい。母と弟を救出して貰うのに、手を貸して貰ったばかりなのに、借金の申し込みまでする事になって。急に纏まったお金が必要になってしまって」
「それは構わないけど、『急に纏まったお金が必要になった』と言うのは、どういう事? まさか、お母さんや弟さんが病気とか? もしそうなら、遠慮なんかしないで。一大事じゃない」
目の前の彼女の境遇や性格について、一年に満たない付き合いでも十分に理解していた為、アルティナはよほどの事情が生じたのだろうと推測し、一番考えられそうな可能性を口にしたが、それを聞いたリディアは、慌てて否定した。
「病気とかじゃないから! 家族は大丈夫なの!」
「そうなの? それなら良かったけど。じゃあどうしてお金が必要なの?」
「それは……」
何故かそこでリディアは口ごもり、アルティナは不思議に思ったものの、そんな彼女を急かしたりせずに、黙って見守った。すると少しして、リディアが申し訳無さそうに口を開く。
「その……、他人が聞いたら相当馬鹿馬鹿しい話だと思うから、できれば呆れないで、話を聞いて欲しいんだけど……」
「呆れないから、取り敢えず言ってみて?」
穏やかにアルティナに励まされて、リディアは覚悟を決めた様に話し出した。
「実は、今年も開催されていた王家主催篤志芸術展を、先月観に行ったの」
それにアルティナが、何気なく頷く。
「ああ、あれね? 十年前位から始まって、毎年作者の有名無名を問わずに、なかなかの作品が集まるって言う。私は今まで、一度も観に行った事は無いけど」
「一度も観に行った事が無い!?」
そこでカッと両目を見開き、僅かに身を乗り出したリディアに若干驚きながら、アルティナは正直に告げた。
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