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「それって、俺だけってことですよね?若人さんのそんな表情が見られるの」
「……うるさい、見んなよ」
羞恥心を煽られ、俺は布団に顔を埋めた。
雰囲気が昨日と全然違う。
なんとなく、もう大丈夫だ、と思った。
数秒考えて、顔を上げ再び口を開く。
「お前は俺と一緒に居るんだよ」
それ以外は無い。
反論など、もうさせない。
調子に乗った俺の急な熱弁みたいな言葉に魔窟が静かに「はい」と返事をする。
「俺、お前の両親にも、ちゃんと話してきたから」
亭主関白のような無鉄砲な口調、それは、まるでだらしのない酔っ払いの様。
それでも、また魔窟は静かに「はい」と返事をした。
魔窟の両親の墓はこの家の直ぐ近くにある。
もしかしたら、魔窟は、まだ墓地に居るかもしれない。
そう思って、昨日、ここに来る前に寄ったのだ。
だが、墓地に魔窟の姿は無かった。
だから、俺は魔窟の両親に話し掛けたのだ。
「初めまして、御薬袋若人と申します。急にすみません、こんな知らない奴が墓参りなんて……」
日が沈む何十分前、魔窟の両親の墓に俺は花を供えた。
近くの花屋で売っていた仏花だ。
しかし、墓には既に綺麗な白い花が供えてあった。
やはり、魔窟は来たのだと思った。
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