午後十時十二分の朝焼け

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「……戻ってくるんだろう?」 不安になる。 思わず、弱気な口調になってしまった。 ──────若人さん、会社辞めたりしないですよね? そう言った魔窟の気持ちが、今なら良く分かる。 「戻ります、必ず」 魔窟の笑顔を見て思う。 俺は、なんて嫌な奴だったのだろうか。 今なら、そう思える。 「じゃあ、待ってるから。しっかり休めよ?」 ホッとして、頬が緩む。 それに自分でも気が付いて、照れ臭くなって、「遅刻するから!」と俺は部屋から急いで飛び出した。 その直前、後ろで魔窟が「あ、若人さん……!」と言っていたような気もするが、気の所為だと思って俺は走って、歩いて、走って、歩いてを繰り返し、駅に向かった。 駅に着くなり出発間近のベルが鳴り、なんとか飛び乗って、ホッと息を吐く。 そして…… 「これ、宗介のじゃねぇか……」と、自分の首元にボヤいたのだった──────。
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