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「なに、ニヤニヤしてんだよ?」
少し離れたところに座る魔窟の顔を見て、俺は冗談交じりに言ってみた。
時刻は午後九時ちょっと過ぎ。
外を暗闇に囲まれた明るいオフィスの中で、ちょうど俺と魔窟は残業を終えたところだ。
「いや、御薬袋さんが、まさか、あんなことを言うとは思わなかったので……」
まだ魔窟の頬は緩んでいる。
魔窟が会社に復帰したのは先週のことで、奴の言う「あんなこと」を俺が言ったのは昨日のことだ。
多分、あのことを言っているのだろう。
お前も人のことは言えないだろうに。
日曜の昼下がり、俺は魔窟と共に奴の実家を訪れた。
つまり、あの商店街にある教会だ。
そこは、いつもと変わらず静かで子供の姿は、やはり無かった。
魔窟が何日か前から戻って来ていても、シスターの俺を見る視線は、やっぱり冷たくて、なんだか逆にホッとした。
急に優しい眼で見られても戸惑うだけだ。
ただ、魔窟が少し席を外した時に一言だけ礼を言われた。
「ありがとう」と一言だけ。
しかし、教会に来た理由は他にあって、魔窟がシスターに大事な話をしたいから、付いてきて欲しいと言われたのだ。
予想はしていたが、その予想は見事に外れることとなる。
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