1053人が本棚に入れています
本棚に追加
/244ページ
「宗介、厳しいことを言うようだけれど、やっぱり、あなたには難しいと思います」
瞳を伏せてシスターが決断を下す。
「私はあなたに母としての愛情は十分に与えて来ました。しかし、父としての愛情は……」
そこでシスターは口を噤んだ。
口にするには余りに残酷だと思ったのだろう。
魔窟に対しても、自分に対しても、他の人間に対しても。
世間には「自分には母親が居なかったから、ちゃんと自分が母親になれるか分からない」「自分には父親が居なかったから、ちゃんと自分が父親になれるか分からない」と悩む人間がいる。
そのことをシスターは心配しているのだろう。
両親の記憶が薄れている、どんなものかを知らない。
己の本当の我が子なら未だしも、見ず知らずの子を育てる難しさ。
妻が居るのなら未だしも、一人で育てなければならない難しさ。
彼女は、魔窟が子育てに挫折し、更に傷付いてしまうことを危惧しているのだ。
諦めさせるために、わざと酷いことを。
──────でも、それって、なんだかな?
「俺では駄目ですか?」
居ても立っても居られず、俺は魔窟の隣から口を出していた。
目の前で「はい?」と、シスターが怪訝そうな顔をする。
「俺も宗介と一緒にここを継ぎます。俺が彼を支えます」
何も考えていない。
ちゃんと深く考えていない。
甘く考え過ぎだ。
そう怒られそうだと思った。
だが、余りに失礼だと思ったのだ。
親が居ないから親になれない。
そんなことは決してない、と思う。
最初のコメントを投稿しよう!