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「御薬袋さん、あなたはとても優しい人間なのですね。神も、あなたを善い人間だと認めていることでしょう」
両目に薄っすらと涙を浮かべ、シスターは大きな十字架を見上げて言った。
微かに礼拝堂の中が明るくなった気がする。
「どうか、宜しくお願いします」
そんなシスターの言葉が礼拝堂の中に静かに響いた。
後のことは、あまり良く覚えていない。
宗介は隣で泣き出すし、緊張が解れた所為か、俺も貰い泣きしてしまい、その後、どうやって自分の家に帰ったのか…………、いや、自分の家には帰ってなかったな、そういえば。
今朝は魔窟の家から出勤したのだった。
もう、あの狭い部屋からは出ようと思う。
自分の部屋にさよならを。
闇に満ちた部屋にさよならを。
「御薬袋さん、俺、本当にあなたに出会えて良かったです」
明るいオフィスの中、俺の席から少し離れた自分の席で嬉しそうに魔窟が満面の笑みを浮かべている。
「あんまり大きな声で言うなよ」
そう注意しながらも、思っていることは同じだと認めざるを得ない。
しかし、お互い「もっと早くに出会えていれば」と望むことは無い。
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