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画面を見ると『非通知』という文字が表示されている。
直ぐに、忘れていた記憶が思い出された。
魔窟に「……御薬袋さん、俺が戻って来るまでに消えていてください」と言われた、あの日。
そう、あの日も確か、非通知で電話が掛かってきていた。
魔窟だと思っていたが、やはり、魔窟だろうか?
いつからか、携帯でも非通知設定が出来るようになったのかもしれない。
「はい、もしもし?」
騙されないぞ?という気持ちを持って、俺はハッキリとした口調で電話に出た。
しかし、また、まただ。
反応がない。
悪い業者か、それとも、魔窟の悪戯か、それ以外か。
「もしもし?悪戯なら切りますよ?」
相手が誰でも良いように敬語で話す。
見知らぬ誰かなら間違いだと思って切るだろう。
名前が知りたいなら、声を出して訊ねれば良い。
見知らぬ誰かなら…………、良かったのに。
「……ははっ」
微かに電話口から笑い声が聞こえた。
男の声だ。
魔窟では無い。
違う。
猫田さんでも無い。
違う。
もう、これ以上、聞くべきでは無い。
俺の頭の中で警鐘が鳴り始めた。
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