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「……す、すみません、覚えてます。橘さん、お疲れ様です」
震える声を止めることが出来ない。
嫌だ、と思えば思うほど、消し去りたい記憶が蘇って来る。
暗くて狭いオフィス、暗い夜道、早朝の路地、上司の顔、意味の無い始末書の数々。
「そうだよ、それだよ。忘れてんじゃねぇよ。お前、あれだろ?病気、治ったんだろう?治ったんなら、こっち戻って来いよ」
もう、この人は俺の上司ではない。
関係ない。
分かっている。
分かっているのに。
「ああ、そういえば、猫田が悲しんでたぞ?お前のこと、"可愛がってやった"のに無視されたって、酷い奴だな、お前。最低だ。お詫びに戻って来いよ」
なんて酷い言い草なのか。
足に力が入らない。
もう立っていられない。
俺は膝から床に崩れ落ちた。
猫田さんとの行為に愛情なんて無かった。
最初から分かっていた。
俺を会社に戻すために猫田さんを利用したのだ。
あまりにも残酷過ぎる。
最低なのは、あんたの方だ。
「も……、や……て……っ」
もう、やめてくれ!と叫びたくて、でも、言葉にすらならない掠れた声しか出なくて、無理矢理自殺に追いやられた人間のように身体の震えが止まらない。
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