夏愁

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夏愁

夏がくる。 蝉が地上を目指し、積乱雲が空で威張り始める。 夏がくるのだ。 十代の夏。 流れていく時間の中で、瞬間を永久に感じる。青春。 大人たちは夏が近づいてくるだけで「あの時は良かった。楽しかった。」などと懐古し始め、世界は群青色に染まっていく。 違う。 違うのだ。 人間は悪い記憶は忘却し、良い記憶だけが残っていく。 過ぎていく青春に何もできない焦燥を感じたのも、終わりかけの夏に抱いた虚無感も、全部、全部忘れているだけなのだ。 俺は、忘れない。 あの時の焦燥を。 決して決して「あの時は良かった。楽しかった。」などと言わない。 あの時の焦燥を虚無を抱いた俺を忘れない。 俺は、忘れない。
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