一話

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あぁ、今回も絶対、不採用だろうな。試験案内には〝面接は一時間程度を予定しております〟と書かれてあったけど、五分くらいで終わったし――今までにも何度もあったことだけど。今回に限っては最後に何かご質問はありますか? とも訊かれなかったな。 先ほど受けた会社が入居するオフィスビルから外へ出た俺、鷹取賢太は沈んだ気分で最寄りのJR駅へと向かって歩き進む。 その姿は傍から見ると、紺色のリクルートスーツがマッチ棒みたいな形をして路上を舞っているように見えるだろう。 俺の身長は一六五センチ。体重は、五〇キロにも満たない。標準的な成人男性と比較すれば、かなりみすぼらしい体格といえよう。おまけにどんよりとした目つきで大抵いつも暗い表情、鈍重な立ち居振る舞い、声が小さく話すペースも遅い。いかにも頼りなさそうな風貌なのだ。 集団面接、集団討論(グループディスカッション)の場において俺は毎回、同じグループになった他のメンバーと比べて最も発言量が少なかった。しかもその発言内容も周りから浮いてしまうような、あまりに突飛で的外れなものであることが多かった。他のメンバーや面接官を苛立たせたり、唖然とさせたりして来たことは枚挙に暇が無い。 入室してから着席するまでと退出する際の動作も、他のメンバーと見比べて悪い意味で一番よく目立ってしまうことが常であった。 今回受けたような個人面接の場においても、訊かれた質問に対して返答するまでにかなり時間がかかってしまうことがこれまでにも度々あった。そして答える時は大抵しどろもどろになってしまう。 ようするに俺は、コミュニケーション能力が著しく低いのだ。
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