第1章

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「その方々が遠方からのお客様ですか」 そこに立っていた鈴を転がしたような声の主は、一人の若い娘だった。浴衣に薄手の着物を羽織っただけの出で立ちで、長い艶やかな黒髪を揺らしている。髪の隙間から蒼白い顔が覗いていて、そのなんとも美しい相貌に、瑞樹は息を呑んだ。 「十和子。部屋から出てきて体は良いのか」 「大丈夫です。今日くらいは、私もはしゃいでしまいますわ。なにせ祭りの日、そして珍しいお客人のある日ですもの。…そちらが、鬼塚様?」 十和子、と呼ばれた女性は瑞樹達に目を走らせて、その視線を鬼塚に留めた。 「ああ。彼が鬼塚宗一郎殿で、こちらお二人は助手をなさっている成実様と瑞樹殿だ」 思わぬ形で紹介されて、たどたどしく瑞樹は会釈をした。それに女もすっと目を細めて、微笑んだ。 「十和子、祭りは夜が本番だ。それまではお前も安静に寝ていなさい」 「わかりました、お祖父様。今宵はよろしくお願いしますね」 そう言って、娘は一行に会釈をして来た廊下を戻って奥の部屋に入っていった。 「…キレーな人」 「…はい」 思わずといった風に漏らした成実に、瑞樹も思わず頷く。鬼塚は村長に向き直り、聞いた。 「今のは?」 「私の孫娘です。生まれつき身体が弱く喘息持ちでして。この島に療養に来ているのです」 「綺麗なお孫さんですね」 鬼塚の言葉に村長は微笑んだ。 そして一行は客間に通された。 寝室は一人一つ用意してくれてあるようだが、三人で語らい寛げるように、ということらしい。 まさに至れりつくせりである。
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