第1章

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荷物を置いた成実は早速腰掛けを陣取った。鬼塚にいたっては既に畳の上に我が物顔で寝そべっている。寛ぐことに関しては二人ともプロであった。 瑞樹はそうもできず、端っこに正座した。 「なんかよくわかりませんけど、今回は楽そうなお仕事ですね」 「だな」 成実の言葉に鬼塚が頷く。 「先生のネームバリューがこんな所にまで知れてるなんて。ビックリです」 そういえば先程の話の中で鬼塚家当主といったような言葉があったのを思い出し、瑞樹はおそるおそるそれについて尋ねてみた。 「あの…あんたって、そんなに有名なんですか」 「あ?まぁな」 簡潔な返事。鬼塚の性格から考えて、もっと自慢げに語り出すのではと思っていた瑞樹は、ある意味拍子抜けした。 しかし、鬼塚家、と言っていたところをみると、彼本人がと言うよりも家そのものが有名なのかもしれない。 「当主っていうのは…」 「ならねぇよ。そういうのめんどくせぇ」 即答はこれ以上聞くなという拒絶にも思われて、瑞樹は言葉に詰まった。そして鬼塚は「便所行ってくる」といい起き上がり、部屋を出て行った。 もしかして、怒らせたのか? 瑞樹は少し不安になる。 「気にしなくていいよー。先生、家の話になるといつもあんな感じになるから」 「何かまずかったですかね…」 「あんまり家のことは話したがらないし、私もよくは知らないけど…」 成実は小型のパソコンをカタカタと言わせながら、チラリと視線を瑞樹の方に寄越した。
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