第1章

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「これって…」 「まぁどれもこれもただの憶測ね。オカルトファンなら誰しも思いつくようなありきたりな話ばっかり」 「……」 呆れたように成実はそのページを閉じたが、そのことは瑞樹の中でしこりのようになって残った。 * 夕刻になって、使用人に夕餉に呼ばれた一行は広間へと顔を出した。 そこには大きな鍋釜が用意されていて、グツグツと中身が煮えていた。 「この真夏に鍋…」 成実がわずかに眉を顰めてひっそりそう零した。とはいえ屋敷の中は冷房も効いていないにも関わらず妙に涼しく、湯気の立つそれも決して不快ではない。 この島に上陸した時から思っていたが、ここは不思議と湿気もなく都会よりずっと涼しかった。 三人は丸テーブルに並んで座った。目の前には三人分の皿と箸が用意されていた。 そこに村長がやってきた。 「お声かけるのが遅くなり申し訳ありません。我が島に伝わる伝統のイラブー汁です。どうぞお召し上がりください」 村長は三人の前に腰を下ろした。瑞樹達は勧められるままに箸を取る。 使用人がおたまで取り分けてくれたそれを瑞樹が少しかき混ぜると、箸にかかったのは…鱗のついた、魚の皮のようなもの。 「ウミヘビの出汁で煮込んだものです」 「ヘビ!?」 成実がうげーと顔をしかめた。そんなあからさまな…とは思いつつ、瑞樹も箸にかかったものをそっとお椀に戻した。…これを口に含むのはなかなかに勇気がいる。 「美味いなコレ」 隣を見ると、鬼塚はもしゃもしゃと頬を膨らませて咀嚼していた。さすが手が早い。なんでもござれか。 「本当ですかぁ?…あ、ホントだおいし」 鬼塚に毒味させたことで踏ん切りがついたのか、疑わしげな視線を送りながらもあっさりと成実も口に運んだ。
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