第1章

27/38
前へ
/40ページ
次へ
「っっとにテメーは謝れない子だな!父さんそんな風にお前を育てた覚えはありません!」 「こっちも育てられた覚えなんざねぇわ!!」 白い巫女装束に身を包んで、握り締めた拳に青筋を浮かせている何者かーもとい瑞樹は、息を切らしてそう言い返した。巫女が儀式用につける長い黒髪の鬘が、瑞樹の頭の上で揺れる。 「だいったいあんた…、!」 まだ言い足りないとばかりに開きかけた瑞樹の口を、鬼塚は手の平で塞いだ。 驚いて鬼塚を見ると、真剣な眼差しで正面を見つめている。つられて瑞樹も視線をやる。 「なん…なんで…」 そこには、ゆっくりと身を起こす十和子がいた。彼女は大きく咳き込みながら、なんとか立ち上がって、恨みがましくこちらを見つめていた。 「お前…生贄の娘を何処へやったの」 十和子が瑞樹を睨めつけながら唸るように言った。その形相に瑞樹は僅かに怯む。そんな瑞樹の前に、鬼塚が立ちはだかった。 「…あんたこそ、巫女をどうするつもりだったんだ」 鬼塚の背に庇われるのが癪で、瑞樹はわざわざ前に出てそう聞いた。鬼塚が舌打ちをしたのが聞こえた。次いで瑞樹に向けられた視線は「お前は大人しくしてろ」と告げていた。 が、鬼塚の言うことを黙って聞くような瑞樹ではない。答えようとしない十和子に、さらにこう突きつけた。 「喰うつもりだったんだろ。生き長らえる為に。人魚の呪いとやらを受けたあんたが」 瑞樹の言葉に、十和子はその目を見開いた。 「人を喰らう人魚の正体は、あんただ」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加