第1章

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「おい、ありゃどういうことだ!どうすりゃ止められる?」 近くにあった銛を手に縄を解いてやりながら乱暴に問いかけると、村長はその顔に絶望を滲ませてゆるゆると首を横に振った。 「わからない…人間の肉が、足りないんだ…それで十和子の中に宿る人魚が暴れている」 暴走を止めるには人間の肉を食わせるしかない。それでももう、手遅れかもしれない。 そう村長は力無くそう答えた。 (どうすれば…) 「ぐっ…ウ、」 瑞樹が考えを巡らせていると、十和子の様子に異変が起きた。彼女はまた大きく苦しみ、数歩よろめいたかと思うと…自分の腕に思い切り噛み付いた。 「!?」 自分の肉を食らっている。 食らいついて、皮膚を噛みちぎる。肉が抉れて、骨が見えた。しかし、そこから血は流れない。 なんともおぞましい光景に、瑞樹は思わず目を逸らした。 「足リナい…こんナんじゃ、タリナイ…いけにえ、イケニエ、ハ…」 そう譫言のように呟いたかと思えば、ギョロリとその目と瑞樹の目が合った。 「…オマエカアァァァ!!!」 瞬間、ヒュッと瑞樹の喉が鳴る。逃げなければ、そう思った時には既に十和子の顔が目の前に迫っていた。大きく開かれた口が、瑞樹の目に入る。 「っ!」 「瑞樹くん!!」 鬼塚と成実が応戦しようとするが、とても間に合わない。 瑞樹は目をギュッと閉じた。 十和子の鱗に覆われた手が、瑞樹の腕を掴む。 バチィッ!! 瞬間、雷のような衝撃が走り。 目の前の全てが真っ白になった。
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