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自分の代わりが、代替品が必要だ。
年老い朽ちていく自分の代わりに、この先ずっと十和子を守ってくれる、強い力を持った存在が。
そんな思いが男の中に生まれた。
そんな時、目についたのがある書物の載っていた名前だった。
瑞樹はその字面を目で追って、息を呑んだ。
鬼塚宗一郎。
鬼の力を秘めし退魔師の一族、鬼塚家の跡取り。
そのような文字の羅列が確かにそこには並んでいた。
(鬼の力…?)
瑞樹がそこに引っかかりを覚えていると、また場面がさぁっと変わった。
その名前を見て、男は閃いたのだ。
自分の代わりに十和子を守れるのは、この男しかないと。
鬼塚宗一郎を招き入れさえすれば、あとは十和子の幻術でどうにかできる。
そんなシンプルな策だった。
その策を十和子に話すと、彼女は無言で頷いた。
その頬に真珠のような涙が光ったことを、男は、國久は気付かなかったようだった。
そして、夫が必死で語るその顔を見つめながら、妻が悲しげに目を伏せたその理由もきっと、瑞樹にしか聞こえていなかった。
男の頭には既にこの策をどんなことをしてでも、成功させることしか無かったのだ。
十和子を守りたい。
彼女に生きながらえて欲しい。
自分のせいでこんな運命を辿ってしまった彼女を、救い出したい。
そんな思いだけで、これまでずっと。
八魚籠國久は生きてきたのだから。
*
瑞樹が次に目を開けると、その身体を包むような温もりがあることに気がついた。
揺れる視界の中よく目を凝らせば、それは見知った男の体温だと知る。
鬼塚が瑞樹を庇うように抱き込むその前には、動きを止めた十和子が立っていて。
そしてその十和子の心臓には、一本の銛が突き立っていた。
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