第1章

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その銛を突き刺して、それを引き抜いたのもまた、八魚籠國久だった。 十和子の身体がぐらりと崩れる。 そしてその引き抜いた銛を、老爺は自分自身の胸に宛てがった。 あ、と言う間も、勿論止める術もなかった。 八魚籠國久はその銛で自分の心臓を一突きにし、そのまま事切れた。 十和子の身体は地面に倒れてから何度か痙攣していたが、ついに動かなくなった。 立ち上がった鬼塚につられて、瑞樹もふらりと身を起こす。成実も銃を下ろして、立ち尽くしていた。 そこには凄惨な物語の結末だけがあった。 「…なんで、こんな…」 なんで、こんなことに。 どうすればよかったのか。 瑞樹はそう言おうとして、結局言葉は続かなかった。 そんな問いを投げかけても、どうしたって答えは見当たらないことはわかっていた。 正解なんてない。何が間違いだったのかすら、もう曖昧なのだ。 「…行くぞ」 鬼塚の声だけが平素通りに淡々と響く。 「他の村人が無事かどうか様子を見にいかねぇと。後始末も山積みだしな」 冷酷とも取れるその声色が、悪夢に呑み込まれたかのような瑞樹の精神を、しっかりした現実に引き戻してくれるようで、今だけはありがたかった。 鬼塚の呼びかけに一つ頷いて、瑞樹はふと動かぬ二人の姿を見下ろした。 十和子の皮膚からはボロボロと鱗が剥がれ落ち、それは蝋燭の光を受けてキラキラと光っていた。
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