第1章

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* 翌朝、この島に初めて警察が足を踏み入れた。 事情聴取を受けた村人らは全員、この事件について何も覚えていなかった。 それどころか、伝承から祭の儀式まで、人魚にまつわることに関しては何一つとして、彼らの記憶から抹消されていた。 それはおそらく十和子が、十和子に巣食う人魚の幻術が解かれたことを意味していた。 それはもう大変な出来事だった。 老爺と孫娘の心中死に、洞穴から発見された大量の人骨、そして集団記憶喪失。次から次へと奇妙なことばかりが出てくる。 瑞樹達も勿論取り調べを受けることになった。 通報したのも自分達だが、唯一の他所者ということもあり妙な疑いをかけられるのではないかと、瑞樹は気が気でなかった。 そもそも、この奇怪な事件の裏事情をどう説明すればよいのか、皆目見当がつかない。 案の定、一行は訝しげな目で見られた。 あったことをそのまま話しても、なかなか信じてもらえない。それも仕方ないとは思う。瑞樹だって逆の立場なら信じないだろう。人が死んでいるのに、人魚だとか呪いだとか、そんな非現実的な話をどう信じろというのか。 しかしそれは初めのうちだけで、鬼塚が彼らに名乗った瞬間に、追及の声はぴたりと止んだ。 警察が渋々ではあれど、納得を示したのだ。まさに鶴の一声というやつだった。 結局この出来事には事件という名がついて、外界から隔絶された閉塞的な島において集団洗脳にかけられていた島民による怪しげな儀式と、その首謀者の自殺、だと世間には報道された。
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