第1章

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「…ったく、なんで俺があんな…巫女役なら成実さんの方が適役だったじゃないですか」 「ちょっと。私にそんな危険な役目をさせる気?」 「そういうわけじゃないですけど…普通に考えて、納得がいかないだけです」 そう言って、瑞樹は鬼塚をじとりと恨めしげに睨んだ。 巫女の身代わりに瑞樹を指名したのは、他でもない鬼塚であった。 それは、相手が幻術の類を使って来る可能性を見越してのことだった。 瑞樹にはなんらかの特殊な力がある。 はっきりとしたことはわからないが、それはどうやら呪術の類を受け付けない、無効にして跳ね返すような、そんな力であろうと鬼塚は推測していた。 そのため、万が一自分が相手の呪中に落ちても、瑞樹ならばそれを解除できるであろうと考えたのだ。 本人に自覚はないようだが、鬼塚もそれを伝える気は毛頭ない。知らない方が良いことも、ある。 ので、瑞樹の問い詰めるような視線を鬼塚は素知らぬ顔で受け流した。 「まぁまぁ、ミズキチ意外と似合ってたわよ?」 「…嬉しくないです」 「ほんとほんと。ねぇ?先生」 「まぁな。馬子にも衣装ってやつ?」 「褒めてねぇだろそれ…」 「あーじゃなくて、猫に小判?豚に真珠?」 「褒めてねぇだろそれ!つか貶してんじゃねぇか!!」 もういい、と瑞樹は二人に背を向けた。 少し離れて船のヘリにもたれかかり、そこからの景色を眺めた。 青い海に青い空。 もうすっかり島は遠のいて見えなくなっていた。そうすると、昨晩の出来事もどんどん遠のいていくようで、悪い夢だったのではないか、という気さえしてくる。
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