第1章

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(……) あの時、と瑞樹はぼんやり思い返す。 瑞樹に襲いかかってきた十和子に腕を取られた。 そんな瑞樹に駆けつけた鬼塚。 そして十和子を八魚籠國久が銛で一突きにした、あの時。 十和子と鬼塚と接触することで、十和子が事切れる瞬間、あの不思議なことが生じた。 あの時瑞樹が見たあの光景は、十和子の走馬灯のようなものだったのかもしれない。 彼女が夫に、新しい自分の身代わりを調達してこようと提案された時、瑞樹の胸の中に流れ込んできた感情は、どうしようもない悲しみであった。 きっと彼女は生き長らえたかったわけではない。 ただ、愛する人と共に、その一生を。 妻を生かそうとした夫と、夫と生きようとした妻。 愛する人に生きて欲しいと想うこと、愛する人と一生を終えたいと願うこと。 どちらが正しくて、どちらが間違っていたのか。 その答えは一生、瑞樹には到底わかりそうもなかった。 ー完ー
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