第1章

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ああ、俺は何を聞かされているんだろう。 言い合いを続けるこの事務所の社長と先輩従業員を白々と横目に見つつ、暑さに朦朧とする頭で瑞樹はそんなことを思った。 本当にやってられない。というか本当に暑い。しぬ。 もうこっそり帰ろうか、となんとか気力を振り絞って瑞樹が立ち上がろうとした時、玄関の方からカサリと何かが落ちる音がした。 郵便だろうか。この事務所は郵便受けすら壊れていて、郵便物が入ったらそのまま地面に叩きつけられる仕様になっていた。 瑞樹はそのまま立ち上がり、ふらりと玄関まで赴いた。 予想通りそこには一通の手紙が落っこちていた。薄い青地の封筒に、差出人の名前はない。やや不審に思いつつ、瑞樹はそれを持ってリビングまで引き返した。これ渡したら帰ろう。 「ああ~あの時やっぱりあっちを選んどきゃあ良かった…っ」 「ばっかみたい。ホントばっかみたい」 まだ何かと言い合っている(合ってるというには両者一方的だが)二人に、瑞樹は投げやりに手紙を掲げた。 「手紙、入ってましたよ」 「「あ?」」 * 前略 鬼塚宗一郎殿 突然の便りをお許し下さい。 私はとある孤島に住まう村主です。 我々の村には古くからの習わしがあり、一年に一度祭りを行います。 そこで風の噂により聞きました腕利きの退魔師であられる貴殿に、是非とも参加して頂きたく文を差し上げた次第です。 我々一同、貴殿の来訪を心よりお待ちしております。 敬具
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