第1章

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「人魚…?」 神様、と聞いて連想されるものとは少し異なるそれに瑞樹は内心首を傾げる。 「ああ。ここはずっと人魚と共生してきた、人魚の棲む島なんさ」 「人魚の、棲む…」 瑞樹がふと来た道を振り返れば、すでに海は遠のいていた。 * 程なくして集落に辿り着いた。昼を過ぎたくらいの頃だ。 村の人達がまさに祭の準備に忙しくしている中を、瑞樹達はすり抜けるように進む。彼らは皆歓迎モードで、次々とフレンドリーに挨拶された。それに会釈を返す。 「わぁすご~!」 煌びやかな衣装や、装飾の施された神輿などが一行の目を楽しませる。 「ここが村主の家だよ」 そうして連れられたのは、屋敷と言う方が相応しいような大きな家だった。屋敷の前には一人の老爺が瑞樹達を待ち構えていた。 「この度はご多忙の中よくぞおいでくださいました。私は村長(むらおさ)の八魚籠國久(ヤビク クニヒサ)と申します」 「鬼塚宗一郎です。お招きいただきありがとうございます」 意外な程に謙虚でまともな挨拶をした鬼塚に、村長は皺をさらに深くし柔和に笑んだ。 「本来であれば港までお迎えに行かねばならないところですが、この老体故に…無礼をお許し下さい」 村長に案内されるがままに、一行は屋敷の中に入る。 キシキシと音を立てる長い廊下からは、立派な庭が見えていた。 「しかし広くて立派なお屋敷ですねぇ。一つ一つの品物がまた…あの壺とかもお高そうで」 辺りを見回しながらそう言う鬼塚の頭にはどうやら金のことしかないらしい。普段死んで腐った魚のようなその目が、僅かに煌めいているように見える。どおりで殊勝な態度だと思った。とことん権力や富に弱い性分だ。
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