第1章

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「いえいえ、滅相も無い。おんぼろ屋敷ですよ。年寄りには些か勝手が悪い」 どうぞ、と広間に通され、瑞樹達は腰を下ろした。お手伝いさんらしき女性がお辞儀をして、お茶を運んできてくれる。冷たい麦茶がありがたかった。 「本当に長い道のりをありがとうございます」 「いえ。早速なんですが、ご招待頂いた理由を聞かせてもらっても?頂いた手紙ではあまりに不明瞭過ぎて」 「ああ、すみません…手紙には詳細は記すことができなかったもので。要は我が村が誇る祭典に名だたる退魔師である貴方様により一層盛り上げて頂ければと…鬼塚家次期当主候補と言われる、貴方様に」 鬼塚の両脇で話の行く末を見守っていた瑞樹と成実は、思わず鬼塚に目をやった。それに気付いていないわけはないだろうが、鬼塚は相変わらずの無表情で村主を淡々と見つめていた。 「そりゃあ光栄ですね。で?具体的には私は何をすればよろしいんですかね」 「まず、知っておいていただきたいのですが、我々の村に伝わる伝承がありまして。この祭りの起源はその伝承に由来しているのです」 村主が聞かせてくれた伝承とは、以下のような内容であった。 遥か昔、島の男達が漁に出ると網に人魚がかかっていた。美しい女の姿をしているが、その足は魚のヒレのように鱗に覆われていたという。初めて見るその未知の生物に、男達はどうすべきか話し合った。 「人魚の肉は不老不死の妙薬とも言われる。半信半疑ではあったが、高値で売れるだろうと考えた者も当然いた」 しかし、必死で命乞いをする人魚が可哀想になり、結局男達はその人魚を海へ帰してやることにした。
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