第1章

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それを恩義と感じた人魚は、村人達に一つの予言を託した。その予言とは、明日の晩に大きな津波が来るというものだった。 「人魚の予言を信じた者達は、山の上へと避難した。そして、翌日の晩…」 予言通り、大きな津波が村を襲った。 幸い、山の上に避難した者達は皆大事なく助かったという。 「これが我が村に人魚信仰が根付いた理由です。以来人魚は我々にとって守り神なのです」 長い御伽噺のような話が終わり、瑞樹はほうと息をついた。隣に座る鬼塚を見やれば、半眼だった。オイ。 「その人魚に感謝を伝えるのが今宵の祭り。皆さんには是非我々のこの伝統を楽しんで頂きたい」 結局、特別しなくてはいけないことは何もないらしい。祭りに参加すれば、それで良いということか。 「この後少し祭りの段取りをお話ししようと思っております。祭りは夜からなので、それまでお部屋にご案内いたしますね」 今晩はここに泊めてもらえるようだ。ありがたい。 再び長い廊下を歩きながら、鬼塚が聞く。 「しかしこの広いお屋敷に、お一人でお住まいなんですか?それか奥様と?」 「いえ、家内は早くに亡くしまして。子供らももう島を出て、それぞれ遠くでやっておりますわ」 「それは寂しいですね」 「いやいや、気楽なもんですよ。それに…」 村長が言いかけた時、背後から一拍置いてミシリと床の軋む音がした。 一同は足を止めて、後ろを振り返った。
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