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…………悪い夢を見た感覚がした。
実際には、そんな感覚がしただけだった。
目を見開くと、どうにも視界が見ずらい。胸にずっしりと重みを感じて、そこに嫌になるくらいの存在感を味わっていた。
「何、してる?」
苛立って、棘ついてモモコに言葉を強く当てていた。モモコは、それに少しも勘づく事無く笑って答える。
「だって、苦しそうな顔してたから。治してあげよって」
俺は、裸で馬乗りになっていたモモコを振り落とし、顔に巻かれた物を、手のひらで掴んで思いっきり剥ぎ取っていた。
モモコは、初めて傷ついたような表情を作り、瞳を潤ませる。
剥ぎ取られた白い螺旋は、くるくる回って、モモコの肉厚な太股に、ぽとりと落下するのだった。
落ちたそれは、白くて長い包帯の塊。
「悪い夢を見ただけだ。お前が乗るからだろ」
「けんちゃんが、心配」
「何処から出したんだよ。それ」
「モモコは、いつも持ってるよ。安心だもん」
「包帯を? 変な奴」
「えへへへ」
女は、褒められたと勘違いしたのか、はしゃいで俺の首に絡み付いて来た。
「モモコ」
俺は、名前を確認する為に呟いていた。名前を呼ばれたモモコは、高揚して身体をブルブルと震わせた。
震えた髪の毛が、顎に当たって、不快にくすぐったい。短くバラバラに切られた癖のある髪の毛は、何だかアートだった。
「けんちゃん、大好き!」
そんな事を考えていたら、モモコの大きな声が耳の奥に、ジンっと響いてきた。
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