KEN

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  店に着いて、古びた木製のドアを開けると、ギイと安っぽい音がした。  薄暗い灯りの先に俺の仕事場がある。カウンターの椅子に座るマスターを隠すように、スーツ姿の男二人が立っていた。迷惑そうな顔でマスターが話をしているのが見える。  予想以上の速さに、俺は唾をごくりと飲み込んでいた。  俺の存在に気付いて、マスターが手を上げていた。男達は確認作業が終わったのか、踵を返し俺と向き合っていた。  くたびれたオヤジと賢そうな若い男のコンビ。俺は、視線を合わさない様に下を向いていた。若い方が俺に声をかけようとしたが、もう一人は、足早に俺の横をすり抜けていた。 「なんすかっ? あいつら」 「刑事だよ。今朝のニュース見たろ」 「事件て? なんすかっ?」  知らないふりをしたのは、刑事が来た理由を知っているからだった。  マスターは、乾いた唇を震わせて笑った後、「テレビくらい見ろ、ばか」と毒づいた。  「そこの店のホステスが、昨日の夜、殺されたんだと。ここら周辺の聞き込みしてんだろ」  俺は、小波を起こす胸の内を顔に出したりはしない。  チラリと頭を過る金色の髪。物が溢れたピンク基調の部屋。全ては過去の物になり既に捨てた記憶。  ニュースで見た被害者写真は、黒髪の幼いものだった。  刑事が、自分を呼び止めなかった事に、俺は安堵していた。  こんな奴、俺は知らない。  心の中で、俺は何百回も呟いていた。  
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