夜空に迎える

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とある会社の花形部署、営業部のオフィス。ここで私は、今日も完璧な笑顔を振り撒く。 「石森さん。このデータどこか変なんだけど、分かる?」 自分の仕事くらい自分で片付けろや。うげ、しかも複雑な資料持って来やがって。 …なんて思ったのはほんの一瞬。『良い人石森さん』はそんなこと考えちゃいけません。 にこやかな顔のまま、朝っぱらから頭をフル回転させてデータを読み解く。 「そうですね…、ここの数値が―」 データの問題点をスラスラと、分かりやすく説明してみせる。 営業部で扱う仕事内容を網羅せんばかりに、死ぬ気で頭に叩き込んだ私の根性舐めんな。 「なるほどねー。ありがとう、さっすが石森さん!」 「いえいえ、お役に立てて良かったです。」 ここで得意気な顔をしたら全てが台無し。正解は、謙虚な返事。 よし、これで今日も私への評価が上がった。ふふん、と漫画みたいな笑い方をしたくなる、そんな歪んだ充足感。
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