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夢と現実
────過去に夢を見た。
俺が…周藤(すどう)家に引き取られる前に見た夢だ。
それがきっと、最初で最後の夢。
もう見られないであろう夢…けれど、その…たった一度しか見ていない夢を俺は覚えている…。
夢の中の俺は、
たくさんの人に愛されて…必要とされて…
毎日を楽しく過ごしているような人だった。
幼い頃に見た夢だけど、すごく羨ましかった。
だから、夢を叶えようとしたんだ。
──でも、もうそれは叶わない…
俺の見た夢はとてもきらびやかで美しかった。
皆が和気藹々(わきあいあい)としていて、笑い声や、歌が絶えなくて…いつも隣に誰かがいた。
けど、今の生活はそれをひっくり返したようなもの。
だからもう、夢を叶えることはできない。
父さんも母さんも…俺を大切にしてくれた…会いたい…何度もそう願ったんだ。
──両親との別れは突然やってきて…もう会うことすら許されなくなってしまった。
父さんと母さんはきっとこうなることを知っていたんだ…
だから、これが最後とばかりに別れの前日…たった1日だけど…愛情を惜しみ無く与えてくれた…一番の思い出になるように。
母さんは実家に帰されて…父さんもそれについていった。
けれど俺は別。
俺は父さんの実家に引き取られた…。
父さんは後継者にならなかったから、その代わりとして。
(今は父さんの弟が跡を継いでいるが…)
でも、父さんは跡を継ぐより…母さんをとったんだ…
本当ならそれを恨むべきだと思う。
けど、あんなに幸せそうな二人を見て、恨むどころか…羨ましく思えた。
父さんはとてもかっこよくて…自慢で。
母さんとの愛を貫いた人。
母さんも幸せそうだったし、俺自身も不満はなかった。
だから、俺だけが別になっても…仕方がないように思えてきて…夢を完全に諦めた。
今の家は裕福だけど。
どこか寂しい…
前のような楽しい雰囲気ではなく、ピリピリした緊張感で支配されている…
それに、父さんの弟に嫁いだ人が赤ちゃんを産んでしまったから…俺はもう、必要とされない。
じいさんも赤ちゃんを次期後継者として認めている。
俺は、ただの居候になってしまったんだ。
それが、いたたまれなくて…
いつものように家を飛び出した…。
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