茹だる暑さの中で

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 と気がつくと、そこは薄暗いカビ臭そうなスナックだった。どこだろう? なんてボーッとしてたらいきなりニョキッと顔を出すバアさん。 「あら、久しぶり大原さん、相変わらずいい男ね」 「ママ、生きていたのか?」  そのバアさんは、俺が二〇代の頃から店をやっているババアだった。こいつは、ひょっとしたら二〇〇年位生きているのかもしれない。 「何か歌ってよ」とマイクを持ってくるババア。聡美も歌ってと強請る。歌? しょうがねえな。 「じゃあ、エリック・クラプトンのレット・イット・グロー」  あるはずないだろうと思ったのだが、何とあった! 聡美が即入れてしまった。  この曲は一八歳くらいの時バンドでやっていた曲で、いくら酔っ払っても歌える、でも大体、自分のギターの弾き語りから始まるのだが…… ああ、ここから入るのね、最近のカラオケは親切だ。一応、歌い終わって盛大な拍手を賜った。 「通じる」  と聡美が言った。そうだったこいつはバイリンガルで英語は堪能だった事を思い出した。 「この曲はな、ジョージ・ハリスンの奥さんをエリック・クラプトンが略奪した時の歌なんだ、知ってた?」 「へえ、そうなの?」 「ああ、でも死ぬまで親友同士だったんだ、女には信じられないだろうが」 「女なら相手の女を憎むわ、彼氏より」 「それは本能だから致し方ない」  そういえば昔、この手の事は結構この子と話してたな、男と女の駆け引きとか。
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