茹だる暑さの中で

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 タクシーで行くほどの距離でもないのだろうが、街中のマンションに着いた。七階建ての賃貸マンションで、結構綺麗な物件だ。『女ってのは少ない給料でも、着実に生活を確保する優れた生き物のようだ』  オートロックを抜け、エレベーターに乗り込む、聡美は恥ずかしげに背を向けている。 『こいつ、このまま俺を養う気はないだろうか?』  と相変わらず下衆な妄想をする俺だった。五階で降りた俺たちは、角から三番目の部屋のドアを開けた。玄関は狭いが中は部屋が二つとキッチン、恐らく六畳づつ位はあるフローリングの部屋だ。俺はリビングのソファーに倒れ込むと、真っ黒なテレビ画面をボーッと見ていた。もうこんな時間だ、NHK位しかやってないなと思っていると聡美が。 「何か飲みます? お茶とか」 「いや、いいよ気にしないで」  と答えたのだが、すると聡美が隣に座った。仕方ねえな。俺は聡美を抱き寄せると、唇を合わせた。運良く、聡美が俺の背中に手を回した。後は成り行きだった。混沌としたジャングルを徘徊し回ったままの獣臭まみれの男と女は交じり合っていた。酒の匂いとタバコや街の埃、それからそれぞれが出す体液とが混じり、潔癖なだけの無機質社会から遠く離れた原始的な世界。  それはやがて、落ちる、滑る、澱む、溢れる、散る、弾ける、泣く、笑う、そして着地する。  一連の行為が終了すると俺はアッという間に眠りに落ちた、役目は果たしたと。
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