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眩しい? と俺は目が覚めた。気付くと聡美はキッチンで何やら動いていた。
「目が覚めました? ご飯食べます?」
と奥から明るい声がした。テーブルの上には朝食が用意されているではないか! といってももう昼だろうが。目の前にあるのはここ数年目にしなかった朝食である、俺は神が造り賜うた尊き女の存在に合掌した。
やがてテーブルに向かい合い座った聡美、素面で見ると確かに年月を感じさせるのだが、それは自分を棚に置いてからの話だ。自分よりはるかに若いこの女は美しく気高い。
「俺、大丈夫だった?」
「え? 何が?」
「何がって、あれだよ、ちゃんと男として役目を果たしていたかどうか」
「…… それ聞いてどうするの?」
「いやあ、ここ一〇年位童貞だったから気になるんだよ」
「何それ? どうせ良かったと言えば自信つけて、女探しの旅にでも出るつもりでしょ」
昔から気付いてはいたが、勘のいい女である。
「何言ってんの、俺みたいなジジイに寄り添ってくれるダイアモンドとやっと出会えたんだぞ、俺は枯れかけレイドバックし尽くしているんだぞ」
「じゃあ、今日からスッポンや貝や精力増強づくしね」
う! そんなに俺を腹上死させたいのだろうか、話題を変えよう。
「でも回り道を随分したものだが、やっと君に戻ってこれたようだ、俺は幸せ者だよ」
何て俺ってロマンチスト、言っていながら背中が痒くなるが。
「大原さんは時々、ナルシストなのか冗談なのか、意味不明の事を口にする、人生全部が不真面目に思われますよ」
意外だった、この子はまだ俺の事を、普通の一般人だと思っていてくれるようだ、大事にしなきゃ。やがて二人でテレビでも見ていたんだが、聡美が『散歩しない?』と言い出した。昔の俺なら、即座に『嫌だ』と言ったところなのだが、若い子と目的もなく歩いてみるのも粋かもしれないとOKした。
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