茹だる暑さの中で

2/18
前へ
/18ページ
次へ
 とそれどころではない。今月も変わったばかりだが金がない。金がなければ飯も事欠き、酒も飲めない。さてどうした事か? 俺は自分の資金繰りに奔走していた、親を欺き女を騙し、知人の借金は踏み倒し放蕩を繰り返してきた俺様であったが、如何せん歳を取り過ぎてしまった。金づるに事欠いてしまったのだ。親が『自分の人生を充実させる為にはちょっと位悪事を働いても大丈夫よ』と言ってくれていたならもっとより良い今があったかもしれぬ。しかし、悪事を働けなどという親ではなく、俺は罪悪感を抱きつつもコソコソとせざるを得なかった、よって今があるともいえる、ちなみに合法的な悪さしかしてはいないが。  俺は机の上に置いた普通のジッポより五倍は大きいまがい物ライターに火を点けた。このライター、まがい物だけあって機嫌のいい時でないと火がつかないのだが、一度点くと味噌汁が炊ける位の炎を出す。仲々愛い奴である、ただちょっと危険な為持ち歩きはしないのだが。俺はタバコに火をつけ、ふ?っと煙を吐いた。 『さて、酒でも飲んで今後の事でも考えるか』  とさっき買ってきたばかりの発泡酒六本入りから一本を抜き取った。 『昔はビールしかなかったのに随分安い酒を飲んでいやがる、ウィスキーでも昔はリザーブかVSOPしか飲まなかったのに最近はVOの大ボトルだぜ』なんて暴対法で落ちぶれたヤクザみたいな事をボヤいていた。  パソコンに電源を入れながら『楽をしている訳じゃあないんだがな、若い頃のバチが当たっているんだろうか?』なんてブツブツ言っていたのだが、メールを開くと懐かしい名前が出てきた。あら? 昔サラリーマン時代の後輩中島からだった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加