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『先輩、元気してますか? こっちは元気です。子供も中学生になりました』
……それがどうした? たまにメールするのなら、浮気がばれて女房が逃げましたとか、熊に噛まれて入院してますとか、下着泥棒で捕まりましたとか面白い話題を送れってもんだ。そういえば、この中島という後輩、随分長い間一緒に仕事はしたのだが、仲々いい男でスマートな男だったので独身時代は結構モテた。
不思議な奴で彼女がいると絶対浮気をしないのだが、特定の女がいないと口説きまくり落としまくる。そして必ずやった後に『興味がないからもうお終い』と絶縁状を突きつけるといった変わった奴だった。本人が言うには『最低!』と言われると快感が走るらしい。
今の嫁さんとくっつく前に特定の彼女がいて、その子は仲々可愛い子だった。痩せてて頭も良く愛想もいい子で男ウケも良かった。が、女から見ると仇敵である、匂いで分かるらしい、危険な女だと。俺は結婚すればいいのにと言っていたんだがいつの間にか別れてしまった。
それからは狂ったように女を貪り始めた中島だったのだが、ある日突然大人しくなった。理由を聞くと遠方に女が出来たらしい、遠方? はて? こんな面倒臭がる男が何故? と思っていたのだが。やがて分かった事によれば、その女とは取引先の女だった。俺もその女とは面識があったので知ってはいたが、同じ会社の社員から中島の女はどんな女と聞かれると『生活力のある女』と答えていた。まだ若いから太くはないのだが、生きる為の体幹のぶっとい女だった。実際、取引先の営業部長もしており業績もトップセールスだったようだ。という事は間違いなく気が弱いはずはないわけで、俺はよく『目を覚ますんだ中島!』彼を揺すっていた。そのうち『幸せだにゃ?』と呆け始めた中島に気味の悪さも感じつつも『日頃、女を騙し続けている男が騙されてどうする?』と男と女の不思議を痛感していたものだ。まあ、私生活はボロボロだったが、仕事に関しては真面目に勤しんでいた為に中島は俺を信頼してはいたとは思う、多分だが。仕方ない、返信してやるか。
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