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そんなやりとりの事もアッという間に忘れ、日々に埋没していたが、クソ忙しい昼間に電話が鳴った。又、中島からだった。
「明日、そっち行くんで夜飲みましょう、又、電話します」というものだった。
次の日、律儀にも俺は早々と仕事を済ませ、風呂に入り中島からの電話を待っていた。まあ、何年かぶりだ、今夜は飲んで騒いであわよくば金でも借りようと思っていた。
するとなかなか電話はこないし、腹も減ってきた。いや、ここで食ってしまってはもったいないと俺は貧乏人の鑑と化していた。すると諦めかけた頃、電話があった。
「家族と食事をしてて、子供達は帰るらしいんでこれから出てこないですか?」だと。もう少し早く呼べよ、相変わらず勝手な奴だ。まあいいか、ここから歩いて二〇分はかかるまい。
俺が着いた先は、居酒屋と食堂の中間のような店で、確かに家族連れでも場違いではない店のようだ。暖簾を潜り覗いて見ると中島はいた。テーブルの上は見窄らしい家族の食い散らかした残骸がかすかに残っている。俺は中島に愛情に満ち溢れた挨拶をした。
「君の不細工な嫁や出来の悪い息子たちはもう帰ったのかい?」
「相変わらずですね、先輩、帰りましたよ」
と席に着くと、おお、老けているではないか中島くん。さぞや気の強い嫁に尻に敷かれ、安い給料でヒイヒイ言いながら、細々と喘いでいるのだろう、嬉しいよ俺は。
まずは生ビールね、第三のビールじゃない奴、と俺は天ぷらと揚げ出し豆腐、串を注文した。
「俺、もう食べないですよ」と中島。
知った事か、俺は腹が減ってる、お前の刺身も寄こせってんだ。と乾杯して昔話に花が咲く。
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