1 私は宇宙人を拾いました

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 働かざる者食うべからずという。そして追い出されても文句は言えないのだ。 「ですが、僕が食べるのは二酸化炭素で、排せつするのは酸素なのです。お役立ちだと思うのですよ、美香さん。あなたの部屋にはいつも新鮮な酸素が、ほら」 「ほら、じゃないでしょっ。酸素が供給されているって言えば聞こえがいいけど、あんたのフンでしょ、フンっ」  すると、青い風船の真ん中部分がぽっと桃色に変わった。 「ふっ。僕の排せつ物をそんなに食べたいだなんて、究極の愛ですね」 「さっさと消えさらせぇっ!」 「ふぐぁっ!」  毎日のように蹴りまくっているせいか、最近、お腹まわりも引っ込んできたような気がしてならない。  こんなわけの分からないものは警察に押しつけようと思い、紐をつけて引っ張っていって、 「これ、落としものです」 と、道で拾ったことにしたのだが、勝手に空中を飛んで戻ってきやがったのだ、この風船は。  ムカついたので、 「どなたでも持ち帰ってください」 と、紙に書いて貼りつけて、くくった紐を公園の枝に縛りつけて捨ててきたのだが、 「わーい。風船だぁ」 と、子供が喜んでその紐を外した途端、こいつは空中を飛んで帰って来てしまった。 「そもそも、どうしてこの私にそんだけ執着するのよ。別に世界征服ならもっと偉い人の所に行きなさいよ。私、貧乏学生なんだから」  正直、そこが分からない。  どうしてこの風船は私に執着するのか。 「嫌ですねぇ、美香さんは。僕達は世界征服なんて目指してないのです。そんな非道なことを考えるのは、あなた方ぐらいですよ」  チッチッチと、風船が小刻みに左右に揺れる。  うん、殴りたい。この人を馬鹿にしているとしか思えない風船を今すぐ殴りたい。  けれども私は、すぅはぁと息を吸って吐いて、気を落ち着かせた。 「じゃあ、何が目的なのよ」  私はそう尋ねた。こっちだって普通に授業とバイトで手一杯なのだ。面倒なことなど、ごめんなのだ。  だからさっさと厄介者は処分しようと思っていたのだが、きちんと対話による解決をはかるべきかもしれないと、そこで私も諦めがきていた。 「あなたの所へ辿り着くことが目的だったのです」  私は黙って拳を握りしめた。 「へぐぁっ!!」  我ながら体重の乗った良い拳だったのだが、宇宙人は一メートルも飛ばずに終わった。
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