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働かざる者食うべからずという。そして追い出されても文句は言えないのだ。
「ですが、僕が食べるのは二酸化炭素で、排せつするのは酸素なのです。お役立ちだと思うのですよ、美香さん。あなたの部屋にはいつも新鮮な酸素が、ほら」
「ほら、じゃないでしょっ。酸素が供給されているって言えば聞こえがいいけど、あんたのフンでしょ、フンっ」
すると、青い風船の真ん中部分がぽっと桃色に変わった。
「ふっ。僕の排せつ物をそんなに食べたいだなんて、究極の愛ですね」
「さっさと消えさらせぇっ!」
「ふぐぁっ!」
毎日のように蹴りまくっているせいか、最近、お腹まわりも引っ込んできたような気がしてならない。
こんなわけの分からないものは警察に押しつけようと思い、紐をつけて引っ張っていって、
「これ、落としものです」
と、道で拾ったことにしたのだが、勝手に空中を飛んで戻ってきやがったのだ、この風船は。
ムカついたので、
「どなたでも持ち帰ってください」
と、紙に書いて貼りつけて、くくった紐を公園の枝に縛りつけて捨ててきたのだが、
「わーい。風船だぁ」
と、子供が喜んでその紐を外した途端、こいつは空中を飛んで帰って来てしまった。
「そもそも、どうしてこの私にそんだけ執着するのよ。別に世界征服ならもっと偉い人の所に行きなさいよ。私、貧乏学生なんだから」
正直、そこが分からない。
どうしてこの風船は私に執着するのか。
「嫌ですねぇ、美香さんは。僕達は世界征服なんて目指してないのです。そんな非道なことを考えるのは、あなた方ぐらいですよ」
チッチッチと、風船が小刻みに左右に揺れる。
うん、殴りたい。この人を馬鹿にしているとしか思えない風船を今すぐ殴りたい。
けれども私は、すぅはぁと息を吸って吐いて、気を落ち着かせた。
「じゃあ、何が目的なのよ」
私はそう尋ねた。こっちだって普通に授業とバイトで手一杯なのだ。面倒なことなど、ごめんなのだ。
だからさっさと厄介者は処分しようと思っていたのだが、きちんと対話による解決をはかるべきかもしれないと、そこで私も諦めがきていた。
「あなたの所へ辿り着くことが目的だったのです」
私は黙って拳を握りしめた。
「へぐぁっ!!」
我ながら体重の乗った良い拳だったのだが、宇宙人は一メートルも飛ばずに終わった。
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