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「つまり、タンポポの綿毛みたいなものなのですよ」
クッションの上で、そんなことをぬかしてみせる風船がいる。
「時期が来ると、僕達はふわぁっと様々な所へ飛び立ちます。そうして着地した所に根付くのです。そうしてそこで僕達は花開き、再び僕達が沢山飛び立つわけです」
「ちょっと待て。そうなると、あんたみたいな風船がわさわさとできるってこと?」
「ええ、そうです」
照れているのか、青い風船全体が桃色に点滅している。
私は想像した。こんな風船がこの部屋でどんどん増殖する有り様を。
尚、この私が暮らしている部屋は、バストイレ付きの八畳ワンルームである。
「出てけぇーっ!」
「あーれー、ご無体なぁ」
私は風船の丸いリンゴ腹をがしっと掴み、糸でぐるぐる巻きにしようとした。
捨ててやる。何があろうと捨ててやる。紐で縛ってから鎖を掛け、南京錠でどこぞのフェンスに繋いできてやる。
だが、私の手の中で宇宙人も暴れようとする。
「やっ、やめてっ。そ、そんなことされたら、僕っ、・・・僕、破裂しちゃいますっ」
「そうしたら燃えるごみで出してやるわよっ。今のまんまでも出してやるけどねっ」
私も鬼ではない。本気で燃えるごみに出す気はなかったが、宇宙人は本気にしたようだった。
「そんなぁっ。繁殖するならここって、こんなにも美香さんを愛している僕をそんなひどい目に・・・っ」
「何が愛だっ」
宇宙人の愛の定義など知ったことではないと、私は怒鳴った。
どうせならテレビ局にでも押し掛ければよかったのだ。そうしてニュースになれば、どこぞの研究所が引き取ってくれたことだろう。
「ああっ、やめてっ。お願いっ、じゃないとっ」
「何だって言うのよっ」
自分が凄い悪役になったような気がしつつも怒鳴りつければ、手の中にいた宇宙人がパンッと割れた。
「え?」
今まで、どんなに蹴っても殴っても締めつけても破裂などしなかった風船型の宇宙人。
彼は青いバラバラな破片となり、・・・そして私の体に降りそそいだ。
(まさか、・・・本当に破裂だなんて)
ひらひらと、私の上に落ちてくる。
その青い破片は、まるで悲しみ色をした花びらに思えた。
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