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「突然僕の部屋へ押し掛けて、勝手に人の貯蔵カップ麺にお湯を注いで、なにバカバカしい質問してんだよ」
僕の不機嫌さに少しは気付いたのか、光瀬が携帯画面から顔をあげて、僕の目を見た。
「悪いな。何も食べる物がなかったから。それよりさあ、トンネル効果だよ」
それよりって何だ。
「光瀬は僕が量子力学(※2)を専攻してないことを知った上でからかいに来たのか?」
「まさか。宇宙物理学だって量子論は必修だろ。多少の勉強をしてるのを考慮した上で、俺は真面目に比奈木の意見を聞こうと思ってるんだよ」
そう言って光瀬は端正な顔をますますキリリとさせた。こいつは知的レベルが高い癖に、いつも意味不明な話題を振ってくる。真面目に答えていいものかどうか、僕はいつでもその都度悩まなくちゃならない。
この、勝手に人の部屋に入り来み、勝手に人のカップ麺を食べようとしているのが光瀬雅臣(みつせ まさおみ)。
僕、比奈木涼介(ひなき りょうすけ)と同じ19歳だ。
同じ工科大学に通ってはいるが、僕が一浪したために彼が一年先輩と言うことになる。彼は量子力学を専攻。僕は宇宙物理学。
実は同じ高校の同級生だったのだが、入試の日にキャンパスで彼に出会うまでは、彼がその大学に入っていたのを知らなかったほど僕らは高校時代の付き合いが薄かった。
(※2) 量子力学
私たちの日常の世界(マクロの世界)の物理現象とはかなり違ったルールを持つ、ミクロ世界の素粒子(電子等)の振る舞いを記述する理論。
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