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(一)
午前八時ちょうど。
僕たちのクラス担任である雨宮楓が、いつものように教室に入ってきた。
昔、顔に大火傷を負ったらしく、雨宮先生は常に目と口以外を包帯で覆っている。
誰も彼女の素顔を見たことはないが、火傷を負う前の写真なら、何度か見せてもらったことがある。整ってはいるものの、どこか翳りのある幸薄そうな顔をした少女が、その中で静かに微笑んでいた――
「今日はみなさんに、とても大事なお知らせがあります。よく聞いてください」
雨宮先生は教壇に立つと、真剣な眼差しで教室の端から端まで眺め渡した。賑やかだった話し声がぴたりと止まり、三十一人の視線が一斉に彼女の方に向けられる。
先生は教卓に両手をつき、大きく息を吸った。
「明日から、みなさんの死刑が執行されます」
次の瞬間、鋭い耳鳴りに襲われた。それが教室中を飛び交う悲鳴だと気づくのに、少し時間がかかった。
ショックやパニックを通り越して頭の中が真っ白になり、騒然とする教室の中で僕はただひとり、身じろぎもせずにじっと前を向いていた。
いつ執行されるかわからない自分の処刑日を待つこと約四年。とうとうこのときがやってきてしまった。
覚悟はできていたはずなのに、いざそのときになってみると、足元が崩れ落ちたような絶望感に襲われた。めまいがし、ぐらりと視界が揺れた。
「優平……」
隣の席の平野結子が、大きな茶色い瞳を潤ませながら、僕のセーターの裾を引っ張ってきた。
こういう場合、何と声をかけてあげたらいいのかわからなかった。これから死刑が執行される人間に対して、大丈夫、などという気軽な言葉は言いたくない。
僕は黙って微笑んだ。うまく笑えているかわからないが、それでも必死に口角を持ち上げて、笑顔を作った。そうしていないと、今にも泣き崩れてしまいそうだった。
雨宮先生は言葉を一語一語、押し出すようにして続けた。
「明日、三月一日より、ここにいる三十一人の死刑を、三十一日間に渡って、毎日一人ずつ執行していきます。順番の事前公表はしません。毎朝、ホームルームの際に、その日に死刑が執行される生徒の名前を、先生が一人だけ呼び上げます。名前を呼ばれた生徒は、刑務官の指示に従って、速やかに処刑場に向かってください」
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