(1)それぞれの孤独 ①

8/8
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
新市街カドキョイ地区のそのアパートメントはイスティクラル通りより西に数本入った細い石畳の通りに面する9階建ての真新しい建物で、ウールの居る最上階の南向きの窓からは少し離れたところにガラタ塔が、更にその向こうにはマルマラ海まで眺める事が出来る。 そのマルマラ海が夕陽に映えて美しい。 しかしヨーゼフはスナイパーの絶好の標的になるので決してバルコニーには出ない様にと釘を刺す様に言った。 「景色を味わうのなら窓越しに」ヨーゼフは真顔で言う「そのためと言う訳ではないが、窓は全て防弾ガラスに替えてある」 そして暫くの間、部屋と建物の周りに極秘で警護を24時間態勢で付ける事、食料は調達するから何もしなくていいと言う事、等を説明した上で「危険回避のため、当面外出は控える様に」と言って来た。 ウールは黙ったまま、怪訝な表情で立っている。 「上層部にあげる報告書作成のため、当分は嫌でも私の顔を見る日々が続く事になる」ヨーゼフ グルダは付け足す様に言って笑った ここに至ってウールは自分が体よく軟禁された事に漸く気づいたのだった。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!