0人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
彼女の話を聞くと、彼女は何年か前からここで働いていた。それ以前の記憶は無く、何故働いているのかも知らなかった。ただ、ここから離れたくないと言う。
私は父親だということを話さなかった。彼女は新人類だ。記憶が戻れば辛いことも多いだろう。
私は軍人だと伝えると彼女は笑いながら私にコーラを差し出した。キンキンに冷えた瓶に入ったコーラを私は飲めずにそっと席に置く。
「軍人さん、今からどこに行くんですか?」
私は何故自分だけが新人類に生かされたのか、答えが知りたかった。そしてその答えが、彼女にだけ許された人間の心と言葉の正体を明かすのだろうと考えていた。
「南へ行きます。南に行って、他の世界を見てきます。」
それに、ヘリが手に入れば母国に帰ることができる。この時はそう思っていた。
私はコーラ瓶を片手に映画館を出た。彼女を助けるために私は彼女の下から去らなければいけない。妻の時のような思いはさせたくなかった。
しかし、私を待っていたのは非常な現実だった。私の右手の義手には新人類の細胞が含まれていた。私の体は新人類に浸食されていく。しかし私が新人類になることは無い。右手の義手は私自身の拒否反応によって腐り落ちようとしている。いっそ切断した方が楽なのだが、新人類の右手は直ぐに再生する。
私が船を見つけて他国に渡り着いた頃にはその国も新人類によって滅んでいた。そしてその国の新聞に、母国の壊滅も記載されていた。
既に私の仲間はこの世界にいない。この世界に、勇敢な兵士などいなかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!